残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法  でも結局「上」をめざさないと生きていけない

 わたしのようなおばさんではなく、若い人が読むとおもしろかったのかもしれません。

 著者は勝間和代VS香山リカに代表される、自己啓発とがんばらなくていい、の対立をとりあげ、そこから感じる違和感から出発して本書を書いたといいます。とくに、がんばれば変われるという自己啓発の楽観的な信念を、いろいろ例をあげて、無理だと説いていきます。その過程は、いろいろなネタが出てきて楽しめます。ちなみに、本文中であげられた本のタイトルだけでも、ざっと40〜50冊くらいになるのでは? とくに進化心理学からの話題が楽しかったです。

 ネタはとっても楽しめたのですが、結論がどうも無責任。世の中は残酷。伽藍でもがいているより、自分にあったバザールを見つけたらいいんだよ、というのが著者の結論。恐竜のしっぽ(ロングテール)の中でショートヘッドを目指そう、ということなんです。この結論にさかれたページ数が少なくて、説得力がないのかもしれませんが、ロングテールの中でのヘッド、って個人の生き方としては厳しい場所ではないかと。食べていくためには、限度がありますから、あまりにもしっぽにいきすぎては無理。そこそこのしっぽにしても、その中でヘッドの位置にいないと食べていけない。やっぱり、苦しくてもがんばらなくちゃだめだということが、語られないままです。バザールの例も、リーナス・トーバルズLinuxコミュニティがあげられていますが、そんな夢のようなバザールがあちこちに転がってるわけもありません。そんなコミュニティにうまく入り込めたとして、食べていくのに役立つほどの立派な評価を受ける人は、ごく一握りの例外的な人なのでは? なんて、暗い考えはだめなのでしょうか。伽藍で身動きがとれなくなっている若者に向けて、そんな野暮な話はしないほうがいいのでしょう。

 若い人はがんばらなくちゃダメだなんてばばくさいことを考えるわたしでも、自分が若いときは、どうして働かなくちゃならないんだとか悩んだこともありましたから、そういうときに、世の中は残酷だよね、と言ってくれるこの本は、読むと「癒やされる」のかもしれないですね。個人的には、癒やされたあとは、ふんばってがんばるか、有限回(2,3回程度)だけバザールへの引っ越しを慎重に考えて、そこでがんばるかが、安全策だと思いますが、それって年寄りくさい考えかな。