『ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち』スコット・パタースン著 永峯 涼訳

 クオンツとは、数学を武器に金融界で巨額の資金を動かすトレーダーです。リーマンショックで騒ぎになった、訳の分からない金融商品を考案した人たちです。

 まず、彼らはもちろん数学が良くできます。そして、それをまずギャンブルで腕試しする人が多いのです。クオンツの系譜が本書に書かれていますが、『ラス・ヴェガスをブッつぶせ!』や『ディーラーをやっつけろ!』から入っていって、カジノのブラックリストに載ってしまい、次の舞台はウォール街というのがモデルコースだったりします。クオンツは数学の天才でもありますが、それだけではなくギャンブラーなんです。

 そんな勝負師たちが、金融取引で確実に儲けられる数理モデルを考えて競い合う世界を描いた本書を読んでいると、スポーツ観戦のような気持ちになりました。ウォール街の倫理とか、彼らの収入ですとか、そういう庶民感覚は、とりあえずどこかにしまっておいて、クオンツの勝負の世界を楽しむ本だと思います。スピード感、度胸、精神力、根性の世界でした。巨大なリスクを背負って勝負に出なければ、負けてしまうのです。そして、実際に大金を稼ぎまくるクオンツたちの饗宴は、「いけいけどんどん」の世界となります。

 そして、山場はリーマンショックで引き起こされた信用危機。「奈落の底」を見ることになるクオンツの恐怖は迫力です。

 砕け散っていくクオンツもいましたが、今回の危機へ向かっていく流れの危うさを見抜いているクオンツもいたようです。誰が悪かったのだろう、クオンツは制限しなけらばならないのか?という疑問もわくかもしれませんが、銀行の経営陣(クオンツの戦略についていけてない人たちもいる)にも責任がありますし、規制当局についてはよくわかりませんが、何か手を打つべきだったのかもしれませんし、そもそも、そういう時代だったのではないかと思いました。ただ、いろいろな商品、企業が複雑に絡み合った今の金融の世界は、もうクオンツなしではやっていけないのではないかと思います。これからも、どこかでギャンブラーたちが活躍するのかもしれません。


ザ・クオンツ  世界経済を破壊した天才たち